慶應合格者からの質問集

慶應付属中合格者からの質問集#3 「アルカリ性の『アルカリ』ってどういう意味ですか?」

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こんにちは、慶應付属中専門の塾講師・家庭教師のたくと( @tact_roadtokeio )です。

さて、今回は「慶應付属中合格者からの質問集」の第3回目をお送りします。
(第1回、第2回の記事はこちら↓。)

今回も、過去に慶應付属3中学に合格した生徒さんが受験生時代にしてくれた質問や疑問を通して、慶應付属3中学が求めている「知性」というものについて少し考えていきましょう

慶應付属中合格者からの質問#3 「アルカリ性の『アルカリ』ってどういう意味ですか?」

第3回目の今回は、昨年慶應中等部に合格した生徒さんが小6の9月にくれた質問です。

生徒「先生がこないだ、『当たり前のように飲み込んで覚えてしまってきたことがないか探してみるといいよ。』って言ってたので、ちょっといろいろ考えてきました!」

僕 「お、いいね!何かあった??」

生徒「ありました!」

僕 「なになに?」

生徒「酸性って、『酸っぱい性質』だから分かりやすいけど、アルカリ性『アルカリ』ってそもそもどんな意味が分からないまま飲み込んでしまってるなって気づきました。」

僕 「すごくいいね!それって、大人でも知らない人が大半なんだよ。」

生徒「ですよね。学校でも塾でも、一度も習いませんでした。」

僕 「じゃあ、今日は『アルカリ』の意味の説明から行ってみようか!」

生徒「あ!やっぱり意味があるんだ!」

僕 「もちろん。『アルカリ』って言うのはアラビア語から来てるんだよ!」

その日の授業はそんな風に始まりました。

こんなふうに、「意味が分からないまま飲み込んでしまっているもの」というのは、暗記科目だと言われがちな理科や社会には実は非常に多いものです。そういった「飲み込み」の積み重ねによって、僕らは「なぜ?」と思うこと、すなわち知的好奇心をどこかに置いてきてしまいます

なので、今まで学んだことの中から「飲み込んでしまったもの」を思い返すという作業を定期的にやることは、子どもたちが知的好奇心を取り返すきっかけになります。

というわけで、今日は「アルカリ」の意味について少し見ていってみましょう。

「酸性・中性・アルカリ性」の中で異質な「アルカリ」。

中学受験理科の化学分野では、多くの場合、まずはじめに水溶液について学びます。

そして水溶液に関して学ぶとき、たいていはまずその性質について学びます。水溶液の性質というのは、具体的には酸性中性アルカリ性といった性質のことです。この性質のことを「液性」と呼びます。(この言葉を知らない生徒が多い。というより、先生でも知らない人が多い。)

さて、ここでひとつ問題が出てきます。

「酸性」や「中性」はすべて漢字なのでとっつきやすいんですが、冒頭の質問にもあるように「アルカリ性」だけカタカナで異質なんです。

「なんだこれ?」って子どもは一瞬思うんですが、その説明はせずに(そもそもその説明ができる先生がほぼいない)、「酸性の物質はこれだから覚えよう!」といった物質の暗記の話に行ったり中和反応の説明に行ったりしてどんどん進むから、子どもたちはそのまま飲み込んでしまうんです

というわけで、ちょっと立ち止まってみましょう。

アルカリ」ってそもそもなんなんでしょう?

「アルカリ」はアラビア語で「(植物の)灰」という意味。

実はこの「アルカリ」、アラビア語なんです

アラビア語は文字がクネクネしていて見慣れない、しかも日本語とは逆で右から左に読むので、大半の日本人にはさっぱりですが、一応書いておくと、こんな感じです。

القلي

うん、読めない(笑)

と、こんなふうにアラビア文字は大半の日本人には読めないので、アルファベットで代用して書くと、 “alkali” となります。これを日本語のカタカナにすると「アルカリ」となるわけです。

ではこれがどういう意味かというと、前半の “al” は定冠詞(つまり意味はない)、後半の “kali” は「(植物の)灰」という意味です。

つまり、 “alkali” という言葉全体でも「(植物の)灰」という意味なんです。

アルカリ
=القلي
=alkali
=al(意味なし) + kali( (植物の)灰 )
=「(植物の)灰

ではなぜ、酸性とは逆の性質の名前に「(植物の)灰」を表す “alkali” が使われたのでしょう?

酸性を打ち消す「アルカリ」。

これは少しだけ化学の歴史を知らなければなりません。

化学とは物質の性質や反応についての学問です。そしてその歴史はかなり昔から始まりました。人類の誕生と化学のはじまりはほぼ同じなので、人類の歴史と同じくらい化学の歴史も長いんです。

さて、そんな長い歴史の中でのある時代の話です。

大昔の人は、レモンなオレンジといった柑橘類などの「酸っぱい物質」が、酸っぱいという性質だけじゃなく、金属を錆びさせたり、牛乳を固めるような特殊な性質を持つことを経験的に知っていました。

そこでそういった「酸っぱい物質」のことを特に研究していました。そしてそういった物質をまとめて「」と呼ぶようになりました

(ちなみにこの「」、今日では英語で「acid」と呼ばれています。この「acid」というのはラテン語で「酸っぱい」を意味する”acere“から来てんです。)

そしてこの「酸」の性質を打ち消す物質の存在も、大昔の人は経験的に知っていました。

当時、人々は植物の灰を洗剤として使っていました。そしてその植物の灰を煮詰めてできる物質が、酸の性質を打ち消すことを経験的に知っていたのです。

だから、「酸」の逆の性質を持つ物質のことを「植物の灰」からとって「アルカリ」と呼ぶようになりました。そしてその性質のことを「アルカリ性と呼ぶようになったわけです。

簡略化してまとめると、

柑橘類って、酸っぱい以外の特殊な性質を持ってるなー。

→あれ、その酸の性質を「植物の灰」が打ち消すぞ。

→植物の灰は、酸の真逆の性質を持ってるってことだ!

→そういった物質を「植物の灰」=「アルカリ」と名付けよう!

→そしてその性質を「アルカリ性」と名付けよう!

といった感じですね。

こういった流れがあって、酸性の真逆の性質のことを「アルカリ性」と呼ぶようになったんですね。

(でもそういった説明は中学受験には出ないから、学校や塾では割愛するわけです。学校や塾で長い間割愛してきたので、その過程をすでに歩んできた学校の先生も塾の先生も知る機会がないので、こういった話はなかなか表に出てこないわけです。)

最後に。

受験勉強は「いかに無駄を省いて効率化するか」が重視されがちですが、それに傾倒すると学問をする原動力となる知的好奇心をどこかに置き去りにしてしまいます。

これは、「学問」をしようとする生徒を欲しがっている慶應付属3中学を目指すうえではけっこうなデメリットになります

「飲み込んでしまったもの」を思い返す時間を、少しだけ大切していきたいものです。

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というわけで今回はこのあたりで。

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ではでは、ご覧くださってありがとうございました。

また次回、お会いしましょう。