慶應合格者からの質問集

慶應付属中合格者からの質問集#1 「炭酸水素ナトリウムのことをなんで重曹っていうんですか?」

前回までの記事で、慶應付属3中学は「知性」を求めているということ、そしてその「知性」をいかに身に着けるかという方法論について書きました。(前回の記事はこちら↓。)

とはいえ、慶應付属3中学を始めとする上位校・進学校を目指す受験生が持つべき「知性」をもう少し具体的に知れたほうがいいなーと前回の記事を書きながら思いました。んーどうしたらいいものか。あ、思いついた!

というわけで、知性をもうちょっと具体的に視覚化するための企画も始めていきたいと思います。その名も、慶應付属中合格者からの質問集」!

これまで指導してきたなかで、「お!知性あるね!」と思った生徒からの質問を具体的に挙げて、小学生が持つべき知性について見ていこうと思います。

慶應付属中合格者からの質問集#1 「炭酸水素ナトリウムのことをなんで重曹って言うんですか?!」

第1回目の今回は、昨年度慶應中等部に合格した生徒さんが小5の理科の授業の時にくれたこんな質問です。

「炭酸水素ナトリウムのことをなんで重曹って言うんですか?!」

言われたことをそのまま飲みこなず、「え?なんで?」と思えるところに知性が垣間見えます。というわけで、今回はこの疑問について解説していきます。

「炭酸水素ナトリウム」=「重曹」という謎

理科の化学分野で液性(=酸性・中性・アルカリ性といった水溶液の性質のこと)を勉強している時によく出てくる記述が、「重曹(炭酸水素ナトリウム)」という表現です。

重曹はアルカリ性だよね、だから、BTB溶液は青くなるよ!あ、この重曹、炭酸水素ナトリウムとも言って少し難しめの学校では普通に出てくるから、これもあわせて覚えておくこと!

そんなふうに塾で習ったりしますが、この説明を塾で聞いた先述の生徒が僕のところに来て、先ほどの質問をしてくれたわけです。

たしかに、「重曹」という名前と「炭酸水素ナトリウム」という名前の間に共通点を見い出せないですもんね。そりゃしっくりこないもんです。

というわけで本題に行きましょう。なぜ、「炭酸水素ナトリウム」のことを「重曹」と呼ぶのでしょう?

「重曹」という言葉は、実は「炭酸水素ナトリウム」を省略したもの。

実はこれ、結論から言うと炭酸水素ナトリウム」という名前を省略したものが「重曹なんです。

 「え、どういうこと?」

きっとそう思うでしょう。うん、そう思うのも当然。省略の過程が抜けているからです。

なので、省略の過程を見ていってみましょう。

炭酸水素ナトリウム」なんてなかなか長い名前がついていますが、それもそのはずで、炭酸水素ナトリウムは2つの物質(イオン)がくっついてできているからなんです。その2つの物質(イオン)が何かというと、

  • 炭酸水素イオン
  • ナトリウムイオン

という2つの物質(イオン)です。そしてこの2つの物質(イオン)には、別名があるんです。

  • 炭酸水素イオンは、別名「重炭酸イオン」。
  • ナトリウムイオンは、別名「ソーダ」。

よって、この2つの物質(イオン)が組み合わさってできた炭酸水素ナトリウムのことを「重炭酸ソーダ」とも呼ぶんです。

そしてこの「重炭酸ソーダ」を、キムタクやマツキヨみたいなノリで省略して、「重ソー」となるわけです。

さらに、「ソーダ」は当て字を使って漢字で書くことができます。その表記は「曹達」となります。なので、「重ソー」は「重曹」となるわけです。

等式化してまとめておきましょう。

炭酸水素ナトリウム
=「炭酸水素イオン」+「ナトリウム」
=「重炭酸イオン」+「ソーダ」
=「重炭酸ソーダ」
=「重炭酸曹達」
=「重曹

(ちなみに、ちょっと厳密に書いておくと、「ナトリウム」という言葉はラテン語・ドイツ語の言葉で、英語だと「ソジウム」と言います。つまりナトリウム単体のことは「ソジウム」と言います。でも化合物中のナトリウムのことは「ソーダ」と呼びます。今回は炭酸水素ナトリウムという化合物中のナトリウムなので、「ソジウム」ではなく「ソーダ」と呼ぶわけです。)

この質問から、慶應付属3中学を目指すために必要な要素を考える。

では最後に、今回の質問から、慶應付属3中学を目指すうえで必要となる「知性」について考えていきましょう。

今回のような質問は、思考力のある生徒さんからはかなり頻繁に飛んできます。「思考力のある」というより、「飲み込まず咀嚼して学んでいる生徒」という方が正確かもしれません。

理科は暗記科目!」なんて言葉をよく聞きますが、これって教育者としてかなり間違っていますそもそも「理科」という科目の意味を分かっていない

理科」というのは、「理(ことわり)」の科目なんです。「理(ことわり)」というのは、物事の道筋・道理のことです。つまりは、論理ということです。暗記とは対極の科目なんです。

だから、出てきたことをそのまま飲み込まずに、一つ一つに「なんで?」という意識を働かせながら、しっかり咀嚼して飲み込むクセを付けることが、理科を学ぶ上では非常に大事です。もし覚えなくてはいけない事柄が出てきた場合でも、周りの受験生が咀嚼せずにスルスルと飲みこんでいる時に自分だけはしっかり咀嚼する、その姿勢がすごく必要なんです。その積み重ねが、大きな差を生みます。

今回の質問の内容のように「途中過程が引っこ抜けて教えられたもの」に疑問を持つ習慣を、日ごろの生活から養っていきましょう。それが、慶應付属3中学が求める知性に繋がっていきます。

そしてそのスタンスを持つことが、本質的には「学ぶ」ということなのだと思います。

というわけで、今回はこのあたりで。また次回、お会いしましょう。